“いくらそのような話を聞いても、私はデル・ラゴスの聖騎士です。私は私の魂にかけてすべてのヒューマンを守る者・ロハに対する忠誠を誓いました。エルフ・トリアン・ファベル、デカン・キッシュ。あなた方の助けには深く感謝申し上げます。だが私はまだあなた方の話を信じることはできないのです。全てのものの父・オンが消えたとか、私たちの神々が私たちを亡き者にするとかという話は聞かないことにします。”
彼には信じるのが難しい真実であろう。彼にとっては、信心という自身の人生を導いていった最も大きい羅針盤だった縁だから… いつか自身が神に背信をしたことを知ったら、彼はどのように変わるだろうか? 神に救援を求めるだろうか? でなければ神に挑戦しようとするだろうか? どんな結果が出るのか分からないがそれがいつになろうが私が彼とともにしているという感じがする。珍しいな。ただ一度の出会いであったのに…
“キッシュ!”
キッシュを呼ぶ声に向かって背を向けた。
“何を考えて何度も呼んだのに聞こえないの?”“ごめん、ドゥリアン、特別なことではない。”
ドゥリアンはキッシュのそばに座りながら話した。
“フーン…私が当ててみようか? 数ヶ月前に行ってきた旅行に対して考えることじゃないの?”
キッシュ豪快な笑いを作った。
“君に何かを隠すのが不可能なことをしばらく忘れてたよ。”“私たちは二年を一緒に送った、ただ友人とは違うじゃない。 兄弟に等しいのにその程度は簡単に知ることが出来るだろう。 その上その旅行以後であなたが考えに没頭している姿がしばしば見うけられてそういう風に察したのよ。 どんなことなの?”
ドゥリアンの心配な表情をしばらく見たキッシュは背を向けて、丘の下のデカン族が軍事訓練をするのを眺めた。両者にしばらく沈黙が流れ、その沈黙を破ったことはキッシュが暗に投げた質問だった。
“真に神が願うのは何だろうか?”
ドゥリアンは意外という表情を浮かべながら、キッシュを眺めた。
“ロハン大陸のすべての生命体が自分たちに恐怖を感じることを願うのか? でなければ皆なくして新しい世の中を始めようとするのか?”
短いため息をつきながらドゥリアンが話した。
“そうね…彼らが何を考えているかは知る術がなくて。 だがいかなる理由としても私は…いや私たちは彼らを許してはいけない。貴方も感じない? 私たちの血の中に流れているアルメネスの悲しみと怒りを。”“そうだ、感じている。何の理由でも私はやはり神々を許せない。 そして彼らを皆亡き者にしたい。だがどのようにしなければならないだろう? どのようにすれば神は存在しない世の中を作ることができるんだろう? ドゥリアン、あなたは分からないでしょう。 神に敵対するということがどういうものか。私は見てきた。神に操縦されて、自身の同僚を殺す姿を…自身の意志などは何の意味もなかった。神の操り人形になって、刃物を振り回して同僚の血をかぶるだけだ。それでも何の感情も感じられないだろう。怒りや悲しみなどはその者達には存在しなかった。”“キッシュ。 私たちはあの下位神たちが作り出した種族らと違い、私たちは主神が作り出した生命体だ。たとえ神々と戦争をしたドラゴン達に比較すれば限りなく小さい存在らだが、彼らのように簡単に神に操縦されはしない。私たちがもう少し力を蓄えれば、神のいない世界になった大陸を支配できる。”“いくら私たちが彼らより優れるといっても神々を防ぐためには彼らの助けが必要だという気がする。 そして事実私たちが彼らより飛び切り優れたというのもも疑問になって。ダン族との戦争で私たちが完ぺきに勝ったのか? とんでもない… ”
ドゥリアンの目で火花が散って彼の声が割れた。
“なんてことを!一体何の話をしたいのだ? そのような考えを持ってこれからデカン族に…”“ドゥリアンさん! キッシュさん!”
ドゥリアンとキッシュが後戻りをしてみるや小さい少年が彼らに向かって飛んできていた。
“老いた虎の使いだね。”
キッシュが独り言でつぶやいた。使いはドゥリアンとキッシュの前まで飛んできて吐息をつきながら、大長老が二人を探しているという話をした。
“何かご用だろうか?”“分かりません。単に大長老様が国王殿下も待っておられると急いで迎えろとおっしゃいました。”
キッシュは国王も待っているという言葉に驚いたがドゥリアンは察していたというような表情で使いに答えた。
“先に立つようにしろ。”
使いが先頭に立って歩き始め、キッシュとドゥリアンは彼の後に従ってレブデカへ向かった。丘を降りて行き、少し歩くやドラゴン・ヘアースタイルの彫刻像が視野に入ってきた。常にこの彫刻像を眺めながら、首都の中に入ってくる時ごとにキッシュは母であるアルメネスが自身に何かをささやいているような感じがした。耳を傾ければ彼女の話が聞こえるだろうか? もしかしたらそれは話ではなく、苦痛でぎっしり埋まった絶叫なのかも分からない。
“あなたに失望した。”
キッシュを眺めた。ドゥリアンは前方に顔を向けたままキッシュにだけ聞こえるような声で話していた。
“あなたならば…私が選出されないといっても安心することができると考えた。 むしろ私よりあなたがさらに適格だと考えた。だが今は違う。”“何の話をしている?”
ドゥリアンは口を閉じたまま何も言わなかった。アルメネスに到着し、ドゥリアンとキッシュは使いについて城中に入っていた。 青いゆえドット中世の中が目の前に広げられていたし国王フェルディナンド・ドン・エンドゥリアゴを中で置いて、両側で大長老と長老らが立っていた。キッシュが老いた虎と呼ぶカルバラ大長老が国王の左側に立っていて比較的若いグループに入る青いひげのハエム長老が国王の右の方に立っていた。数十年にわたったダンとの戦争で休戦という終わりを持ってきたハエムを全ての者は彼を示して‘台風の目’と呼んだ。彼は白い顔に細くて長い青いひげをぶら下げて温和な表情で静かに席を守っていただけだが、どういうわけかむやみに無視することはできない気勢が周囲をぐるぐる回っていた。その気勢の源泉は強い力でなく彼の三寸舌であった。普段は言葉が少ないが、彼が話をすれば皆が彼の意見に屈服しなければならない気がするという。 そのような彼の威力が最も発揮されたのはダン族との平和交渉であった。悲鳴の戦場でデカン族の幼い少年アナンが死んだ時、デカン族とダン族は戦争の残忍さを悟って無意味な殺傷を終わらせたかった。だがどのようにすれば終わることができるのか分からなかった。とても永らく持続した戦争なので果たして簡単に平和交渉が成り立つのか予測できなかった。国王と長老らは何日の間昼夜を分けないで悩んだ。三日間、昼夜が去った後のある日の夜、ある若い青年が会議場に入ってきて、自身がタン族の軍長に会えるようにしてくれるならば平和交渉を成功させると話した。まさに青いひげのハエムだった。そこにいた皆が自身の耳を疑った。長老らはハエムに無謀なこととし、反対意見を掲げた。だが彼は一歩も動かず、自身の意見が受け入れられるのを待った。国王はその姿を見て長老らの深刻な反対にもかかわらず、彼の意を受け入れることに決心した。朝日が寝ついていた大地を起こす早朝にデカン族とダン族が眺める中、ハエムはダン族の陣地に単独で歩いて入った。 彼はダン族の兵士たちに囲まれて、軍長レアムモネドゥがいるというテントに移された。 誰も口を開かなかった。ひたすら沈黙の中、二種族の間で時間が流れているだけだった。時間の流れが無感覚になった頃、ハエムが軍長レアムモネドゥと共にテントから出た。 レアムモネドゥがデカン族に向かって、平和交渉を受け入れると大きい声で叫び、そのようにして二つの種族間の平和交渉が成り立った。ハエムがレアムモネドゥをどのように説得したのかに対して分かる人は誰もいない。ただしハエムの話を聞いてレアムモネドゥが涙を流したといううわさはキッシュも聞いて知っていた。 キッシュが成人になって、王室を出入りすることになりながら、何度か彼を見たことがあったがだまされる分からない、偉人とだけ感じていた。
“早く来るように。”
フェルディナンド・ドン・エンドゥリアゴが威厳ある声で2人を迎えた。 ドゥリアンとキッシュ腰下げて挨拶した後片方ひざまずいて低姿勢になった。
“ドゥリアン…そしてキッシュ。君らに対する話は長老らを通じて聞いたよ。皆が同じ言葉で君らが私たちのデカン族中で最も優れた戦士と私に言ったよ。”
“過剰称賛でいらっしゃいます、陛下。”
ドゥリアンとキッシュが頭を下げながら話した。
“私が国王になってすでに50年が経っている。自ら最善を尽くして駆け抜けてきただろう。どの種族にも遅れをとらないように。だが今は私も老いた。いくら鋭い剣でも歳月が流れれば刃が鈍るように、澄んだ水も溜まっていればいつかは腐ってしまうだろう。 もうデカン族には新しい王が必要だと私は感じているよ”
キッシュは驚いて頭を上げた。 ペルディナント・ドン・エンドゥリアゴが王位から退くというのか?
アルメネスからデカン族が誕生した直後、彼らはちりぢりに散って見慣れない環境に適応して行こうと努力するだけだった。その時強いカリスマと優れたリーダーシップを持ったある若者が散っているテカン族たちを集めて今の首都レブデカでアルメネスに対して話した。自身を含んで、デカン族はドラゴンと神々との戦争で最後の生存者でデカン族の母胎のドラゴン、アルメネスを決して忘れてはいけないと。彼女が自身の残った生命力を使って、デカン族を誕生させた理由は、死んでいったドラゴンたちの復讐を果たすためにとし、一日も早く神々に対抗できるように強力にならなければ他のロハン大陸の種族らのように神々によって、終末を迎えることになるだろうと話した。その若者の名前はアガードであった。アガードの指揮の下デカン族は結束し始め、自らを保護する準備をし始めた。アルメネス国家の体制が整えられた時、皆当然アガードが王にならなければと考えた。王になった後自らをフェルディナンド・ドン・エンドリアゴと命名した。彼はデカン族の生きている歴史で英雄だった。
キッシュたちも幼かった時から国王を尊敬して英雄と考えてきた。 そのような彼が自ら王位から退くというのは、誰が聞いても信じるのが難しい話であった。
“私は王の席を出して血筋に譲り渡すつもりなどはない。今後も永遠にデカン族の王は世襲でなく、長老らと王によって選出されるだろう。私は何年か前こういう私の考えを長老らにすでに伝えたし、彼らに真に王になるほどの若い戦士らを推薦してくれと要請しただろう。それで君ら二人は今、私の前に来ている。”
国王は話を終わらせて大長老を眺めた。大長老は国王に向かって頭を下げた後、キッシュとドゥリアンに説明し始めた。
“私たちは国王陛下の要請により君らを含んだすべてのデカン族の若者たちに対して審査をしてきたし最終候補で君たち二人を王位候補者に定めました。これから一月間二人は色々な試験を経て、その結果により次の王に選出されるでしょう。 正々堂々と善意の競争をするよう願います。”
大長老の話が終わってキッシュとドゥリアンは国王に挨拶をして王室を出た。キッシュとドゥリアンを捕まえて何か話をしようとしたがドゥリアンは速い速度に一人で離れてしまった。混乱とと苦々しい気持ちで、キッシュはゆっくり出口に向かって歩いていった。 突然誰か自身のすそを引っ張るのを感じて振り返った。青い皮膚に真っ赤な瞳を持った幼い少女が自身のすそをさっと捉えていた。キッシュ何の話もなく何かご用なのかという表情で幼い少女を眺めた。 少女はさっと笑うと彼にささやいた。
“青いひげのハエム様が西の城門で待つと言われました。”