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第1章1節 救援の重さ<3話>

エトンは国家の首都であり聖地であった。 最初にR.O.H.A.N大陸に足を踏み入れた八人のジャイアントは大地から得られるものなどを集めて、神に感謝祭を挙げた。 ジャイアントを創造した大地の神ゲイルはその中に姿を現わして、ジャイアント達を祝福しながら、この大陸を征服して全ての者をひざまずかせよと命じた。 その場所がまさにジャイアント達の国家、ドラッドの首都エトンだ。

精魂を込めて細工された布で飾られた王宮はジャイアントの中でも背が高い方のナトゥにもすごい威圧感を抱かせてくれた。 いつもその雄壮な美しさに感心したが今は普段のように満足な気持ちにはならなかった。

最初のジャイアントがR.O.H.A.N大陸に登場して以後長い歳月が流れた。 しかし広いこの大陸でジャイアント達が支配している領域は極めて小さい部分に過ぎない。 全てのものをひざまずくようにしてゲイルに花を持たせるどころか、毎年数を増やし続けるモンスター達から、今の土地を守ることだけでも手に余っているではないか。

“ナトゥ?”

クルレムが低い声で呼んだ。 彼はあごで王宮を示した。 ナトゥは首を縦に振ってクルレムと共に王宮入口の階段に足を乗せた。 最近になってクルレムはずっと用心深くナトゥの顔色をうかがっていた。 ナトゥもやはりその事実を悟っていた。 弟のラークが戦場で死んで以降、彼自身も感じる程不安定な状態であったから。

“戦士会で理由もつけずに召還とは。 いったい何の用だろう。”

クルレムのつぶやきには用心深い憂慮が立ちこめていた。 ナトゥは肩をすかせてみせた。 事実彼としては戦士会の召還よりはその後にある母との出会いがより一層恐ろしかった。 戦死した弟ラークのことで悲しむ母を見るのはやはり苦しいはずであった。 ラークが戦場で誇らしい死を迎えたとのことは母には何の価値もないことであった。 ついに頭を発見できなかった弟の無惨な死体がまた目の前に目に浮かんだ。 そのような死体さえも首都に持ってくることができなかったことやはり母には大きい悲しみだろう…

ナトゥは自身の腕にかかった二つの腕輪をいじりまわした。 一つは自身の物. もう一つは死んだ弟ラークのために作られた物。 戦士会の集会室に歩いていきながら、ナトゥは二つの腕輪がはめられている手首がとても重々しく感じられた。 戦場で振り回す両手の二本の剣を足したような重さだった。

戦況報告が終わると戦士会はあまりにも簡単に解散してしまった。 ナトゥとクルレムは難しい行事が簡単に終わったことに対して半分ぐらいは安心して半分ぐらいは腹が立った。 たかが戦況報告を受けるために戦線で戦っている部隊長を首都で召還するということに。 二人の友人は虚しく笑いながら集会室を出た。 集会室の門の外にはまだあどけない幼さが残っているジャイアントの青年が立っていた。 青年は二人の部隊長に近づいて,略式で挨拶した。

“ノイデ様がお二人様をお連れしろとおっしゃいました。”

小さい声でささやく青年からは周囲の人の目と耳を敬遠する意図ががありありと見えた。 集会室での行事が終わったのに戦士会の首長がなぜまた会おうというということだろうか。 気がかりなことが残ったが案内役で現れた青年は質問する機会を与えなかった。 いつのまにか歩みを移し始めた青年の後に従ってナトゥとクルレムは戦士会の集会室の後ろに位置した小さい部屋へ向かった。 戦士会の首長のノイデは若い身体と老いた頭を持つと評価される人物だった。 今は直接出陣することがない老将戦士だが、若者に劣らず堂々とした体格を持ち、歳月による賢明さを持った者であった。 十余年前、モンスターとの交戦中に片方の目を失った後、一つ残った目は腰にかかった凄じい斧と一緒に以前よりより一層鋭い光を放っていた。 ノイデはその鋭い片目でナトゥとクルレムを品定めをするように注意深く見やった。 彼の顔にはうれしいそぶりや笑みの表情のようなものは少しも現れなかった。 ノイデは二人の戦士のあいさつを上の空に流して口を開いた。

“君らをここまで呼び入れたことは数年が経ってもろくな戦果が出ない戦況報告などを聞くためにでない。 特別に指示することがある。”

ナトゥは唇をかみ、クルレムは顔をしかめた。 二つの戦士が命をかけて守っている戦場をあまりにも簡単に無視する発言だった。 彼らが腹が立ったそぶりを見せてもノイデの冷たい表情には変化がなかった。 ノイデがまた口を開いた。

“ダークエルフ側の使節団がまもなく到着するだろう。 君らはしばらく彼らを護衛する特別任務に当たってもらう。”
“護衛…ですか?”

ナトゥは怒りを押さえ込んで尋ねた。 使節団護衛任務を任せるために部隊長の自分とクルレムを首都に呼び入れたことはどうしても腑に落ちなかった。 特別に過ちを犯して、謹慎任務を引き受けるわけでもないのに。 おかしな点はそれだけでなかった。

“そのダークエルフの使節団は私どもが護衛までしなければならないほど大事な来賓ですか?”

今度はクルレムが尋ねた。 ジャイアント達にダークエルフはそれほど良い評価ではなかった。 単純で直線的な性分のジャイアント達にとって、懸命に方程式を計算して、内心では表面と違った考えをするダークエルフ達の思考や行動は納得するには難しかった。 しかもダークエルフ達はジャイアントには理解できない力…魔法を扱う種族だった。 そういう根強い不快感がクルレムの短い質問には深くはらんでいた。 ノイデはもう一度2人の若い戦士をかわるがわる見てから首を縦に振った。

“君ら二人は近い将来戦士会の一員になるだろう。 君らの功績はすでに首都エトンまでよく知られているからな。 だから君らも分かっておく必要はあるだろう。 偉大な戦士で、岩の魂を持った私たちの国王レプ・トゥラバ殿下はダークエルフ達と手を握ろうとお考えになられている。”

二若い戦士は驚いた表情を浮かべたまま何も言うことができなかった。 彼らを眺めたノイデの口元にとても少しの間、微笑が浮び上がって消えた。
by hiiragi_rohan | 2007-04-14 03:02 | R.O.H.A.N小説


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