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第1章1節 救援の重さ<7話>

世界を創造したオンは各種族の領土の間に強力なドラゴンを置き、各種族らが互いに入り乱れないようにした。 これはトリアンが幼い時から神殿と学校で習ってきた世界創造神話の一部分だった。 オンの思い通り永い歳月の間各種族はお互いが大陸のどこかに生きているということを知りながらも会うことなく生きてきた。 そしてロハン暦240年、ヒューマン使節団が種族外としては初めてエルフ国家ヴィラ・マレアの首都レゲンに到着した。境界を守護したドラゴンが消えたという事実はその時にエルフ達に伝えられた。ドラゴンが消えた理由も、彼らがどこに消えたことかも明らかにならないまま。
トリアンはちらりと同行者を見やった。 彼女の同行者のキッシュはデカン種族であった。 自らをドラゴンの後裔と呼ぶ彼ら。デカンという見慣れない種族がR.O.H.A.N大陸に初めて姿を現わしたのは明らかにドラゴンが消えた時期と一致した。 もちろんR.O.H.A.N大陸の住民たちの大部分はデカン種族の主張をありえない話だと感じていた。 トリアンもまた、デカン達が自ら主張するように彼らがドラゴンの子孫という話はそれほど信用していなかった。 ひとまずテカン族はトリアンが今まで見てきた絵や文で描写された姿とは大いに違った。 ドラゴンとデカンの一致点とはうろこと水掻きで作られたような奇異な耳程度だけだった。 いや、トリアンが直接会ってみたデカン種族は今眼前にいるキッシュが唯一の人物であるから、他のデカン達はまたどんな外観をしているかも分からないことであった。

トリアンはキッシュの視線の先にあるグラト要塞の高い塀を眺めた。 ささいなこと一つにも美しさを重視するエルフらには、ただ機能性だけを考え、単純に厚い壁を折り重ねるように建てている様は理解できない部分だった。 エルフのトリアンにグラト要塞の形態は美しさが欠如した冷たくて厚くて高いだけの物で、草一つ育たない、荒々しく立っている岩山にも劣る建造物であった。 しかも高くて厚い要塞の壁はトリアンとキッシュにとても邪魔な状況だった。 二人の、グラト要塞からかなり離れた丘の上で体を隠している状況では、要塞の中の状況をなかなか把握できなかった。キッシュは要塞の中の状況を見渡すためにトリアンが把握できない奇異な能力を使った。 遠く離れたまま、直接見ることもなく、要塞の中の声を聞くというものだった。 キッシュだけでなくトリアンまでもその声を聞くことができた。 キッシュはその能力を示し、ドラゴンの後裔の中でも一部の者だけが使用できる特殊な力だと話したが、トリアンはまだそれがエルフ達が知らない魔法なのか、あるいは単純に詐欺に過ぎないのか図りかねていた。キッシュが使った奇異な能力を利用して、要塞の中の一人と対話をした後しばらく、トリアンにはこれ以上要塞の中の誰かがした話やその周囲の声が聞こえなかった。 それはキッシュ同様であるようだった。キッシュの広く開かれた耳が2回ほどうごめいた。 キッシュは顔をしかめたまま言った。

“その小僧、危険に陥ったようだな。”

キッシュはトリアンが反応する前にすでに要塞に向かって丘を降りて行っていた。トリアンはため息を吐いてその後に従った。いったいなぜこういう任務を引き受けることになったのか。彼女は今まで何度も繰り返し自問自答してきた質問を頭の中に今一度思い出していた。
ヴィラ・マレアの首都であるヴェーナは五つのクォーターに分けられた美しい計画都市だ。 そして魔法アカデミーはその五つのクォーターの中一区域を全て使っているほど重要なところだ。 長年の魔法研究の歴史が残っている魔法アカデミーは海を背を向けて高くそびえ立っている王宮の塔と共に首都ヴェーナの誇りだとエルフ達は考える。 丸く配置された建物中に広く開いているアカデミーの広場は学問を磨く場所らしく静かだった。 海から吹いてくる風が広場内の木々を揺さぶって、清涼な声を放っていた。 風が吹いて木が揺れて鳥がしきりになく中でもリマ・トルシルの声ははっきりと聞こえてきた。

“お願いします、トリアン。あなたは優秀な学生であり優れた才能を持った魔術師ですから。 私のつまらない心配だけならば良いのですが…そのように簡単に終わりはしないでしょう。 助けて下さい。”

こんなことだと分かっていれば断っていたなのに。このことをお願いしたリマ・トルシルがヴィラ・マレアの最高大神官だったとしても。リマ・トルシルとアカデミーの校長がトリアンを推薦して褒め称えたといっても。 こんなこととあらかじめ知っていたとすれば他の適任者を探せることだと断ったはずなのに。 なんだか面白がるようなキッシュとは違ってトリアンは誰かと戦わなければならないということ自体が嫌いだった。 エルフ達にとって、人に傷を負わせたり、他人から傷つけられるのはとても不快なことだった。 要塞入口からいくらも離れないところに岩と薮から成る茂みがあった。キッシュはそこに体を隠して座ってトリアンを待っていた。 彼は突然真顔で鋭い表情をして要塞の中をにらんだ。後に従って到着したトリアンは要塞中に漂い出る気勢に息がつまって、しばらくふらついた。 それは信義力と自然の気勢を利用した魔法の力を扱うエルフには耐えられないわい曲された気運だった。 信義気運。しかしこれ以上神聖でないあのわい曲された気運。大神官リマ・トルシルの言葉が事実なのか。

“神々は私たち皆に背を向けるでしょう。 私たちを嫌って、その憎しみによって私たち皆を世の中になかったものとして消そうとするでしょう。”

トリアンは身体が震えるのを感じて自ら両肩を抱きしめた。 キッシュはトリアンをちらりと見やり、長い指で要塞の中を示した。 要塞入口は変に感じられるほどパックリと開いていた。 そしてその中では色々な影が紛らわしく動いていた。 感じるのが難しいほどわずかに吹いてくる風の中に濃厚な死の臭いが混ざっていた。 血の臭い。何の理由であったか、ヒューマンの兵士達はお互いの命を狙いながら凄惨な乱戦を行っていた。キッシュがトリアンの肩を触って指で空を示した。 トリアンはキッシュの指につれて空を見た。 太陽が浮び上がっていくばくもなかったはずなのに周囲はむしろますます暗くなっていきつつあった。 特にグラト要塞を中心に暗雲が急激に集まっていた。 暗雲は要塞上空で非常に大きくうず巻き始めた。キッシュの指が今度は要塞かなたの野原へ向かった。 遠くからホコリ雲が騒がしく起きていた。 エルフ達の先天的に持って生まれた鋭い見解でトリアンは暗雲を起こす原因を把握することができた。 モンスターの大軍団がグラト要塞に向かって猛烈に駆け付けていた。 パックリと城門を開いてモンスター部隊を待っているようなグラト要塞に向かって。
by hiiragi_rohan | 2007-04-23 23:25 | R.O.H.A.N小説


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