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第1章1節 救援の重さ<10話>

ヒューマン王国デル=ラゴスに建設されたグラト要塞はヒューマン達の自負心がこめられた建築物だと聞いた。モンスター達が急増して、人々を襲撃し始めるや防御ラインとして急造された要塞であった。 それでも非常に堅固に作られた建物で、ヒューマン達はここを無敵の要塞と呼び、誇らしく思っていた。
トリアンは目の前でうなだれている若いヒューマンの騎士の心を理解することができた。自分たちの象徴だったものの一つがその内部から一気に崩れてしまったのだ。エルフ達の誇りであった首都レゲンをモンスターらに奪われたように。グラト要塞に入る前までトリアンはこのようなことになるとは思ってもいなかった。しかしグラト要塞の動向を見回したキッシュが低いうめき声を出すといきなり口を開いた。

“その小僧を救いに行く。”
“キッシュ、待ってくださいよ! 私も一緒に行きます。”

キッシュはトリアンの話に答えないまま低姿勢になって要塞へ向かった。 キッシュの後に従って飛び込んだ要塞の中の状態は凄惨だった。数多くのヒューマンの兵士の死体が要塞中に散らばっていた。 生き残った兵士たちはまだお互いに向かって、剣と矛を振り回し戦っていた。狂気に捕われて、お互いを憎悪しながら戦う人々。トリアンはその暗い気勢に体が震えてくるのを感じた。ヒューマンの兵士たちはお互いに対する憎しみがあまりにも大きくて周囲の何も見えないようだった。 キッシュは彼らが攻撃してこないということを悟るや大きく耳を立ててしばらく音をあさっているようだった。そして彼は急いで要塞の中にある建物へ向かった。トリアンは足にかかる死体とすべりやすい血溜りを避けてふらつきながら、やっとその後に従った。キッシュは半分ぐらい開けていた建物の正門を押して退けた。一歩遅く近付いたトリアンは眉間をしかめた。先んじた人の背中が邪魔して、視野が制限されていているトリアンにはキッシュが誰かの肩を抱いているように見えた。誰だろうかと心配する前にキッシュは特有の鉄の声であらんかぎりの声を張りあげた。

“何をボーッとして見ている! 何かしろ! お前は魔術師じゃないか!”

トリアンはあたふたキッシュの横に走って行った。身近に近付くや奇怪な状況が一目で入ってきた。 門の中で背を向けて立っている男の体には大きな穴が空いていた。キッシュは片方の手で男の肩を握りしめて、もう一方の手を男の体に開いた穴の中に押込んでいた。 トリアンは息を引き寄せて尋ねた。 自ら声が震えていることが感じられた。

“…だ,あなたが…その,そのように殺したのですか?”

穴の中に押し込んだキッシュの手。いっぱい力が入って、筋肉が浮き出た彼の手は男の体を通過して、体の主の手首を握りしめていた。男が手に持った剣を振るえないようにしようとしているところだった。男の胸とその胸に茫然と空いた穴をぼうぜんと眺めたトリアンの視野に入るものがあった。 その穴の向こう側にあるもう一つの人物。キッシュは金属感たっぷりな声で怒っていた。神がどうしたとか、モンスターらがどうしたとか、死体がどうしたとか。その半分ぐらい悪口が混ざった叫びの中にはトリアンに向けたものもあった。まぬけなエルフ女とか、この男は初めから死んでいたとか、エルフの大神官の神眼を信じることはできないとか。どうであれキッシュの悪口と不平はトリアンの耳に明確な意味で聞こえてこなかった。トリアンはヒューマンの男の胸に開いた穴とキッシュの腕で区分された狭い視野の向こう側に見えるヒューマンの青年の顔に集中していた。自身の胸をぐっと押している彼の両手は血で赤く染まっていた。とてもおびえて混乱に陥った顔。今の状況が理解できないという表情。ヒューマンの青年の目と合った時、トリアンは彼がつぶやく言葉の内容を理解することができた。
動く死体達でいっぱいな要塞でキッシュとトリアンはやっとヒューマンの青年を引っ張って逃げることができた。そしてもしもの場合の追撃を避けて洞窟に隠れ、足音が迫るかを聞いた。グラト要塞に奇異な現象が広がり始めながら、突然暗くなった空はついに勢いよく雨を降らせまくった。逃亡者達をかくまおうという配慮なのか壊滅してしまったグラト要塞のための涙かわからないが。

トリアンはヒューマンの青年を救う過程で一瞬見た姿を思い出してからだが震えた。 大きな穴が空いたまま動く人よりも、要塞の中庭にいっぱい広がった死体のようなものよりもより一層恐ろしいこと。 それは神の姿をした憎悪であった。トリアンが見てしい、ヒューマンの青年もやはり見たはずのその神の姿は実際にR.O.H.A.N大陸に生きて動くすべての種族らに対する憎悪をかもし出していた。
キッシュはグラト要塞でにせ物の神がいるといった。 にせ物の神…リマ・トルシルは彼らがにせ物だとは思わなかった。私たちR.O.H.A.N大陸の被造物に憎悪を持った彼らが、にせ物の神であれば私たちにはもう少しましな状況かも知れないが…

“あなた方は誰ですか? エルフと…異種族の方達がこの地域にはどんなことで…”

ヒューマンの青年-エドウィンが用心深く尋ねた。 トリアンはその話声に現実に戻った。 エドウィンはトリアンとキッシュをかわるがわる眺めていた。彼はデカン種族のキッシュを初めて見たため、彼をどのように呼ぶべきかも適当な名称を捜し出すこともできないようだった。 この前のトリアンがそうであったように。

“またごあいさつします。私はトリアン・ファベルといいます。エルフで、ヴィラ・マレアの魔法アカデミーの学生です。そしてあちらはキッシュ、デカン種族の一員です。”
“あ…エドウィン・バルトロンです。 私はデル・ラゴスでロハを崇める聖騎士団の一員です。ところで…”

トリアンの話に反射的に自身を紹介したエドウィンはためらいながらキッシュを見た。

“世界の父・オンが直接創造された生命体ドラゴン…彼らの後裔が私たちのデカンだ。”

キッシュが錆がついた金属性の声で説明を付け加えた。 エドウィンはしばらく顔をしかめてため息を吐いた。

“ドラゴンの後裔…ですか。今は何か話を聞いても驚かないと思います。”

信じることができないという表情だった。トリアルはエドウィンのその乱れていた心情を理解することができた。
by hiiragi_rohan | 2007-05-08 17:39 | R.O.H.A.N小説


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