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第4章1節闇の中の真実<5話>

朝にドラット国境地帯を去ったナトゥは夕方になってハーフリング西部国境地帯に到着することができた。 フロイオンが追手を避けて通りそうな所を歩き回ったがフロイオンの影どころか追手に似た、いかなる存在も発見できなかった。バタンの情報に疑問を持ったが、フロイオンを捜せということは国王の命令だったし、彼を見つけることができなかったとしても、イグニスに行ってダークエルフの国王にジャイアントがダークエルフ使節団の唯一の生存者であるフロイオンを捜すために努力したということを証明しなければならなかった。いつの間にか日が沈みかけていた。ナトゥはこの近くに留まってもう少し捜してみなければならないと考えた。巨大な背もたれ、地面に座るとうっそうとした木の葉の間から流れこんで来た月明りが彼の古い皮の長靴のすそを照らした。森の中で何もなく、このように座ったまま寝るのはナトゥにとってそれほど難しい事ではなかった。
大部分のジャイアントの戦士たちは自分の身位広い皮を地面に敷きそこに横になって眠った。しかしいつどこでモンスターが押しかけるかも知れない辺境ではそれさえ享受する余裕はなかった。ナトゥは辺境へ来て以来、常に鎧を着て腰の当たりに、刀物がささり切れ目が入ったベルトをぶら下げたまま壁に背もたれて座って睡眠を取った。部隊長になった後も彼の睡眠方式は変わらなかった。ラークはそんな兄を心配して宿所のベッドで熟眠を取ることを勧めたし、彼の進言に従い、宿所のベッドに横になったこともあったが、不快でぎこちないだけだった。
結局ナトゥはベッド自体にもたれて座って眠ったし、朝にその姿を見たラークはあきれたという表情で笑うだけだった。石墓碑に寄り添って倒れていた頭のないラークの死骸。悲嘆の野原で死んだ弟の姿が浮び上がるとナトゥは目を開いた。目から涙は出なかったが心深い所で熔岩のように熱いのがあふれ、心の割れた隙間から漏れるのが感じられた。その熱気が全身に広がったのか喉が渇いた。近くにある湖畔に行くために席をはたいて起きようとするとナトゥの目にかすかに輝く物が捕えられた。ナトゥはゆっくりその物がある場所に歩いて行った。小さく丸い物が月明りを受けてきらめいていた。腰を曲げて拾って手の平に乗せた。土ぼこりを被っていたがそれは確かに銀で作った指輪だった。三つの紫水晶のはまった指輪は内側に文字が刻まれていた。ナトゥは汚くなった指輪を水に浸してきれいに洗い出して月明りに照らして見た。指輪中に刻まれた文字はジャイアントの言語ではなかった。もしかしたらと思ってナトゥは指輪をあっちこっち回して見て紫水晶がはまった反対側にある文様を見て悟った。それはフロックスを象徴する花火文様だった。ぱーっと咲いた花の花びらのように開かれている花火たちはダークエルフを創造した下位神・フロックスと王室を繁栄を意味した。

“ここを過ぎ去ったな…”

ナトゥは独り言をつぶやいて周囲を見回したが他の形跡は見られなかった。 指輪を拾った所に戻り、ひざまずいて地面を目を通した。数多くの足跡がからまっているのが見えた。その足跡を通じてナトゥは4名のハーフリングが車を引くロバとともにここを過ぎ去ったということが分かった。足跡で相手のことを知るのは戦士訓練所で一番初めて習う内容だった。ナトゥが会った戦士訓練所の担当教官は武器をよく使うのも重要だが、それ以前に相手方に対してどの程度知っているかにより勝敗が左右されるといつも強調した。‘車に何か重い物が積んであった。ところが…この足跡はハーフリングではない。他の種族の足跡が二つもある。歩幅で見ると二つとも男だ。だがフロイオンの足跡は違う。ダークエルフ使節団はシルクで作られた履物を履いていた。そのような履き物ではこういう模様が出ることはないだろう。この足跡は身体が軽くてとても早く動く奴だ。エルフ? 違う。エルフの足跡より少し重く見える…これはハーフエルフの足跡だな。 そうだ、以前聞いたことがある。ハーフリングがハーフエルフを傭兵として雇っているという話…他の奴もハーフエルフか?しかし履き物が全く違う。ハーフエルフは薄い鹿革の履物を履くがこれはそれよりさらに丈夫で粗悪な靴底を持っている。あたかも薄い金属のような。その上この歩き方は疲れているが節制されて力が入っている。’

分からない正体の足跡を指で探ってナトゥは考えに浸った。湖畔で上がってくる水煙が風になびいて森に広がっていった。月の光を受けた水煙は青い色を浮かべながら、地表を静かに覆った。自身の足の上をかすめる青い光の水煙を見てナトゥの頭に浮び上がることがあった。節制されて力がある歩き方と丈夫でやぼったい履き物…

“聖騎士か。”

ナトゥは自身の口から出た単語を耳で聞いて強い拒否感を感じた。 ロハン大陸で最も広い土地を占めた種族のヒューマン。そのためなのかは分からないがドラゴンが消えた後、ヒューマンの王国というデル・ラゴスでジャイアントのドラットで派遣された使節団は傲慢な顔をしていた。その時ナトゥは10才だったし、幼い弟らを連れて久しぶりに家に戻る父を迎えに行っていた。王宮の前の広場には数多くのジャイアント達が集まり何かを待っていたし、戸惑っていたナトゥの目の前に現れたのは生まれて初めて見る種族と彼らを護衛している父であった。ナトゥの周囲で彼らを見物したジャイアント達はその異様な種族を‘ヒューマン’と呼んだ。ナトゥは自身と全く違う容貌を持った見慣れない種族を我を忘れて眺め、青い色と銀色で作られた鎧を着たヒューマンと目が合った。極短い間のことだったが過剰な自信と優越感に満たされた彼の目つきはナトゥを不快にした。その日夕方家に帰ってきた父は額に血管をたててしかめた顔で自身が護衛してきたヒューマン使節団に対して話した。

“本当に生意気なやつらだ。自分たちがロハン大陸の主人でもなるかのように行動している。それでも私たちは礼を尽くす意味で国境からエトンまで護衛した

が、むしろ国王陛下に私たちが自分たちを犯罪者扱いしたとぶつぶつ言うんだ! 国王陛下はジャイアントがヒューマンよりはるかに大きいからそのような誤解をしたようだと笑いながらおっしゃったよ。本当に無礼な種族らだ! ところがそんな出来事ははやまだ序の口にすぎなかった。彼らはドラゴンが消えた後ロハン大陸を歩き回って他の種族らにたくさん会ったが、ジャイアントがその中でも最後というものよ。あたかも自分たちが私たちのためにここまできたように話すのに本当にあきれたよ。ところで本当にこらえることができなかったのは私たちが願うならば何の条件もなしに私たちにヒューマンの文明を伝授するということなのだ! その場にいた皆がヒューマン使節団が私たちをどれくらい無視しているのか知ることが出来ただろう。私を含め、そこにいたすべてのジャイアント達の表情があっという間に固まってしまった。はなはだしきはいつも表情の管理が上手な近衛隊長ノイデ様も顔がゆがまれたよ。

そんなヒューマン使節団の傲慢放縦した言動はすべてのジャイアントたちに知られたし彼らに強い拒否感を持つようになった。ジャイアントは自分たちの文明に大きい自負心を持っていた。険難な北の地で 8人のジャイアントを始まりに開拓して来たジャイアントの文明を侮辱するということは彼らの先祖が流した汗と努力をあざ笑って精神世界を踏み付けることと同じだった。故にジャイアントたちがヒューマン使節団の提案に怒ることは当たり前なのだ。ヒューマンたちがジャイアントたちの拒否感と怒りを感じたのかそれとも自分たちの進化された文明に未開なジャイアントの文明は役に立たないと自慢したことかはわからないがその後でドラットを訪問するヒューマンは誰もいなかった。後にナトゥは自分と目があったヒューマンが聖騎士であるということを知ることになった。
足跡の主人が聖騎士ということを分かるとナトゥは不快になった。ヒューマンの聖騎士とハーフエルフの傭兵、四人のハーフリング、重い物が積まれている車をひくロバ、そしてフロイオンの指輪。ナトゥの頭の中で車に載せられて行くフロイオンの姿が描かれた。ダークエルフ使節団を襲った者がヒューマンの言語で話し合ったという、死んだ従者の言葉が事実ならヒューマンの聖騎士の足跡がハーフリング達とともにある理由を推察できそうだった。ダークエルフとジャイアントの間に位置したハーフリング達はダークエルフとジャイアントが同盟を結ぶことに対して大きい脅威と感じられるのが当前だろう。しかしハーフリングやハーフリングに雇用されたハーフエルフが使節団を襲って自分たちが露呈する場合、状況はもっと悪くなるかも知れない。それで彼らは一番近い友国であるヒューマンたちに助けを要請したのではないか?

ナトゥは席から起きてあちこちにつけられている足跡を睨んだ。自分の推測が違うこともできた。しかしその外にはこの足跡たちが説明されなかった。これからフロイオンを捜す事は単純にダークエルフとジャイアントばかりの事ではなかった。ハーフリングとハーフエルフ、そしてヒューマンまでかかわった事になってしまった。ナトゥは自分の推測が正しいと言っても自分がハーフリング達を尋ねてフロイオンを出しなさいと言うことは、ジャイアントがダークエルフとハーフリングの関係に口出しをするということになってしまう。ひょっとすれば五種族たちがお互いに縛られて戦争をするようになるかも知れない。ここまで考えが及ぶとナトゥはまずイグニスに行ってダークエルフの国王にダークエルフ使節団が襲撃されたことはジャイアントと関係がないということを明らかにしてこの事にハーフリングとヒューマンが関与している可能性に対して話を伝えるのが優先だと判断した。フロイオンが生きているのか死んでいるのか、現時点では分かることができなかったがナトぅは彼が生きていると信じたし、自分がイグニスに行ってダークエルフたちとともにこちらに帰って来て彼を救出するのが一番早い方法だと確信した。しかし永遠の時間が去ってもナトゥはこちらに帰って来ることができなかった。
by hiiragi_rohan | 2008-07-03 19:32 | R.O.H.A.N小説


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