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第1章2節 神を失った世界<1話>

大陸の南側に位置したエルフ達の大地では冬が短かい。 海から吹いてくる風がすでに冷たくないほどに気温が上がっていた。 老人たちがマレアの手助けだと呼ぶ良い春天気であった。
トリアン・ファベルは小さい花束を抱いて神殿へ向かっていた。黒いリボンで縛られた花束は亡くなった者のためのものだった。 毎月一度、トリアンはマレアの神殿に花束やろうそくを灯して亡くなった母のための祈りを捧げた。それは30年以上継続されてきた習慣だった。幼い時には父のふところに抱かれて、神殿へ向かったことを歳月が経ってもずっと繰り返している。事実トリアンの記憶に母の姿は薄かった。寿命がヒューマンの二倍にもなるエルフだが、そのような彼女にも母の死は記憶に正しく残っていないほどであった。その時のトリアンはとても幼い赤ん坊だったのだ。35年前のR.O.H.A.N暦258年。エルフ達は建国直後からずっと彼らの首都であったレゲンをモンスターらの手に奪われた。 建築家の父はその時エルフ達の第2都市であるヴェーナで仕事をしていた。休暇を得ることになったという彼の伝言を受けて母は二人の子供と共に喜びながら待っていただろう。 そんなに平和な毎日は何の予告もなしで破られてしまった。いつの間にかレゲンを囲んだモンスターらは夜の闇に乗じて都市を襲撃し、多くのエルフ達を虐殺した。トリアンの母は他の人々と共に第2都市ヴェーナに向かって逃げた。 やっと一人で歩けるようになった長男の手を握って、まだ幼い赤ん坊のトリアンを抱いたまま。 トリアンがマレアの神殿で仕事をした見習司祭ゼニスに抱かれてヴェーナに到着して、父とまた会うことができたことは奇跡に近いことだった。 ゼニスの話によればトリアンは喉に斧がささったまま死んでいた母の懐の中で泣いていたし、彼女の兄はどこにも見つけられなかったといった。 薄い記憶の中の母と、顔さえ思い出さない兄の犠牲を踏んでトリアンは今生きているのだ。

“全てのものの父オンと、全てのエルフの師匠マレアの加護…なのか。”

神殿で基礎教育を受ける時から習慣的に唱えるようにと習った経典をつぶやいたトゥリアンは眉間をしかめた。 何ヶ月前の仕事が浮び上がったのだ。 最初の疑惑を事実か確認しようとする大神官リマ・トルシルの要請を受けて、キッシュという異種族と共にヒューマンの大地を訪問したこと。その時トリアンが見て感じたことは、全ての者の父・主神オンはすでに存在しなくて、種族達を守護する五神は大地に存在するすべての被造物を席巻して滅ぼそうとしているという恐ろしい事実だった。
報告を受けたリマ・トルシルは目の前で最後の希望を奪われた人のように暗い顔になっていた。 その後彼女はただ一度も笑う姿を見せなかった。明らかに神官としても予言者としても、リマにはあまりにも大変な真実であっただろう。色々考える間に、歩みはいつのまにか神殿に至っていた。まだ目の前に残っている記憶と重なるようにリマ・トルシルの青白くて暗い顔が視野に入ってきた。

“…久しぶりにお目にかかります。 大神官様。”
“久しぶりですね。 トリアン。”

大神官は頭を軽く動かして挨拶を受けた。彼女の視線じゃ神殿の祭壇へ向かっていた。祭壇の上には黒いリボンで縛られた何輪かの花が置かれていた。 トリアンの手に持たせたものより、より一層素朴な花束だった。

“なんだか… その事が思い出されて。”

トリアンの視線はやはり祭壇上の花束に留まっているのを察知して、リマ・トルシルは弁解するように話した。トリアンは目を伏せて頭を下げた。 デカン族のキッシュとともにトリアンがヒューマン王国デル・ラゴスに行ったように、同じ任務を受けたエルフが二組以上はいた。リマ・トルシルの要請を受けて、一つはハーフリング国家のリマに、他の一つはダークエルフ王国イグニスの国境付近に派遣されていた。彼らもトリアンのように神の姿をした何かを目撃して、モンスターらがR.O.H.A.N大陸の一部を占領するのを見届けた。リマに派遣されたエルフは無事に戻ったがイグニスに送られたエルフはモンスターらの攻撃を受けて、大きい負傷したままかろうじて帰還した。 そして幾日かすら持ちこたえられないまま亡くなった。リマ・トルシルはその時命を失った人のために花束を準備したのだった。トリアンは祭壇の上に花束を置いて母のための祈りを捧げた。そして彼女のように任務を引き受けて命を失ったエルフのためにも短い祈祷を付け加えた。 祈祷を終えて立ち上がるやリマ・トルシルが疲れた表情で祭壇を眺めている姿が見えた。リマがゆっくり口を開いた。

“習慣というのは恐ろしいことですね。あなたも私もすでに知っているけれど。 私たちの祈祷を聞き入れる方は誰もいないことを…”

同じ考えていたトリアンは重く首を縦に振った。 リマ・トルシルは三人のエルフを派遣して、調査したR.O.H.A.N大陸の状況をエルフ女王・シルラ・マヨル・レゲノンに報告した。秘密裏に会って大神官の報告を聞いたシルラ・マヨルはしばらくの間沈黙を守ってこれらすべてのことを不問にせよとの命令を下した。リマ・トルシルは女王の不問令を下した理由を理解することができた。エルフ達の国家は女神に対する愛と尊敬を土台にして立てられた国。 神に対する信頼が破られれば国は混乱する。 国家東方のダークエルフ、その北方のジャイアント達が不穏な動きを見せているこの時期に、国内に不安を植え付けることは避けることが正しかった。だがいつまで隠すことができるだろうか。神々が大陸の住民たちを捨てたのではないかといううわさはすでに密かに回っている。ある地域では狂信徒らが神の意志により自分たちの手で大陸住民を虐殺しているという話も聞こえてきていた。R.O.H.A.N大陸が被風に包まれるのはどう見ても時間の問題であった。

“大神官様。もう私は帰るようにします。”

いきなり聞こえてきた声にリマ・トルシルの精神は現実に戻った。トリアンが頭を下げて挨拶をしていた。リマが首を縦に振るやトリアンは神殿の門の外に歩いていった。その後ろ姿を見ながら、エルフ大神官は低い声でつぶやいた。

“帰りなさい。 まだ帰る場所があるうちに…”
# by hiiragi_rohan | 2007-06-04 16:37 | R.O.H.A.N小説

第1章1節 救援の重さ<12話>

トリアンは自身がエルフの王国ヴィラ・マレアを離れて、ヒューマンの王国デル・ラゴスまで秘密裏に訪ねてくることになった理由を説明した。 大神官リマ・トルシルが全ての者の父である創造神オンが消滅したのを目撃したこと。 各種族を守護した神々が何かしらの理由でR.O.H.A.N大陸の種族達に敵意を表わし始めたこと。世界各地に現れ始めたモンスターらは神の力で作られたという話。神々が世界を作って、自分たちに生を与え、今になってまた全てないものにしようとする…全てのものを見たとはいえど、エルフの神マレアを奉る神官としてのリマ・トルシルには苦しくて、信じられない事実だった。リマ・トルシルには現在の状況を自らに納得させることができる証拠が必要だった。大神官としてヴェーナを離れられないリマは魔法アカデミーの学生・トリアンを選んで任務を任せた。 トリアンに与えられた任務は最近混乱の気運が強力に感じられているヒューマン王国デル・ラゴスのグラト要塞に行って状況を見回してきてくれというということだった。
そしてトリアンはリマ・トルシルが紹介したキッシュというデカン種族と共にグラト要塞を訪問したし、危険に陥ったヒューマン若者-エドウィンを救い出したのだった。
エドウィンは状況を整理できないといった表情だったがトリアンの長い話を黙々と聞いていた。トリアンの知識ではデル・ラゴスの騎士達は皆、ロハを崇める大神殿所属の聖騎士であった。エドウィンもやはりロハの聖騎士団の紋章が入った鎧を着ていた。 そのような彼に神々が全種族に敵意を抱いて、全種族を抹殺するためにモンスターを送っているという話は大きい衝撃であろう。事実トリアンも、彼女が今まで見聞きした話の中の、美しく高貴で親近感を覚える女神・マレアがエルフ達を抹殺しようとしているという話はまだ信じ難いことであった。 トリアンの話が終わるやキッシュが首を鳴らしながら荒い息を出した。

“俺はキッシュ。すでに聞いたとおりデカンだ。リマ・トルシルとはくされ縁でな。今回このエルフを護衛してグラト要塞まで来ることになったんだ。”


キッシュは手短かに話して口を閉じた。 彼の皮膚は焚き火の光を受けるとうろこを持った生物の皮膚特有のつやつやする光沢を見せた。 エドウィンとしては明らかに初めて見る容貌の異種族だった。 しかし信じてもかまわない存在であるのか、キッシュもやはりまた他のモンスターの変種ではないかという考えが頭の片隅から離れなかった。 怪物に変わってしまった聖騎士から自身を助けたキッシュの姿を記憶にあることにも。トリアンとキッシュ、エルフとデカン。異種族二人が静かにエドウィンを眺めていた。エドウィンは何も言うことができなかった。 しばらく三人の間には沈黙が漂った。洞窟外から聞こえてくる雨音の中で、くべられた枝が焚き火の中で弾ける音だけ洞窟の中に鳴った。長い沈黙の後、エドウィンはようやく言葉を口にすることができた。 彼はトリアンとキッシュをかわるがわる見てから口を開いた。

“エルフの大神官の考えをあなた方は皆信じているのですか? 神々が…私たち皆に敵意を抱いており、全ての種族をこの土地からいなくすためにモンスターらを作り出しているというとんでもない話を・・・”

低い声で始めたエドウィンの話は徐々に大きくなった。 否定したい感情の表現。トリアンが何か話す前にキッシュが口を開いた。 今回は根が深い怒りが混ざった激しい息であった。

“とんでもないだと? 俺たちデカンがどのように生まれたのか知っているか? 俺たちデカンは生まれる時から神々に対する怒りと憎しみを心臓の中に持った者達だ。 主神オンが彼自身の手で直接創造した偉大なしもべドラゴンがどのように絶滅して行ったのか知っているか?!”

ドラゴンの後裔という彼の主張が真実かそうでないかは置いておいて、火花を吹くようなキッシュの怒りは途方もない威圧感があった。 エドウィンは息を止め、トリアンは肩を震わせた。キッシュの話はずっと続いた。

“主神オンが消えてしまった理由などは分からない。 だが彼が消えるとR.O.H.A.N大陸の五神は一番最初にドラゴンの前に姿を現せた。彼らはすべてのドラゴンを攻撃してなぎ倒した。この大陸を守る任務を与えられたドラゴンらは彼らの手によって皆殺しにされた。最後のドラゴンのアルメネスは傷ついたまま大陸の北側のバラン島に飛んで行って、俺たちデカンを産みだして死んでいった。それが俺たちが生まれた理由と、俺たちデカンが神々を憎悪する理由だ!”

キッシュの感情が激昂することによってその声もまた大きくなっていった。キッシュの最後の話は鋭い金属音となって洞窟壁を駆け巡った。その叫びはしばらくの間洞窟の中をぐるぐる回って徐々に洞窟外の雨音に埋められて消えた。こだまが完全に消えた後も三人は微動もせず座っていた。 重い沈黙を肩の上に乗せたまま三人はしばらくの間それぞれの考えに沈んでいた。
今回も沈黙を先に破ったのは若いヒューマンの騎士であった。エドウィンはため息を短く吐き出して話した。

“いくらそのような話を聞いても、私はデル・ラゴスの聖騎士です。 私は私の魂にかけてすべてのヒューマンを守る者・ロハに対する忠誠を誓いました。”

エドウィンはまだ苦痛な身を処して席から立った。

“エルフのトリアン・ファベル、デカンのキッシュ。 あなた方の助けには深く感謝を申し上げます。 だが私はまだあなた方の話を信じることはできません。全てのものの父・オンが消えてから、私たちの神々が私たちをなくそうとするという話は聞かなかったことにします。”

エドウィンが腰の周囲を手で探りながら、何かを探すとトリアンはその信号をわかったようだった。 彼女は解いて洞窟の片隅に片づけておいたエドウィンの剣をつかんで回してくれた。剣を差し出すトリアンと受け取るエドウィンの視線があった。少しの疑いも含まれていないきれいで大きなエルフの瞳。その中には洞窟の暗さと焚き火の光とその両方に浮かびあげられたエドウィンの顔が映っていた。

“どこへ行こうとする? まだ体も楽ではないだろうし、雨が降っているが?その上要塞を占領したモンスターらが近所を捜索しているかも知れないぞ。”

キッシュが尋ねた。 エドウィンは剣を腰に挿して答えた。

“首都アインホルンに帰るつもりです。 私はグラト要塞の唯一の生存者です。要塞の壊滅に対して最大限早く報告する責任があります。”
“たいした騎士だな。”

キッシュの話には少し皮肉が混ざっていたがエドウィンは気付かない振りをした。 彼はもう一度トリアンを見回した。心配がこめられた大きな紫瞳。その瞳と出会えたことは若い騎士エドウィンには大きな幸運で、かつ、大きな不幸でもあった。エドウィンはデル・ラゴス聖騎士団のしきたりにのっとった丁寧なあいさつを二人の異種族にして洞窟を出た。 夜が明けようとしてはいたが周囲は薄暗く、雨が荒々しくあふれていた。


- 1節終結
# by hiiragi_rohan | 2007-05-30 13:12 | R.O.H.A.N小説

R.O.H.A.Nにおける生産の楽しみ

最近残業続きでR.O.H.A.Nを満足にできない†柊†です。
こんばんは。
新入社員が5月病でさくっと辞めちゃったもんだからしわ寄せが・・・
それはおいといて。

みなさん移動武器は作っている方が多いと思いますが、
PTでバフッててMPポーションのリキャスト待ちしなければ
ならないということはありませんか?
ナイト1人パーティーだと私が配りまくるわけですがどうにも
具合が良くありません。そこで・・・
R.O.H.A.Nにおける生産の楽しみ_f0122608_1823059.jpgバフソードなるものを作ってみました!!
凄い便利♪今までMPが満タンになるポーション飲みながらバフってましたが、この剣があれば下級ポーションで充分b
しかし難点が一つ。
戦闘用武器に持ち替えずにそのまま狩りを開始してしまったりします。

みなさんも作ってみてはいかがでしょうか?
# by hiiragi_rohan | 2007-05-29 18:25 | 装備品

第1章1節 救援の重さ<11話>

母は何も言わなかった。 ナトゥが伝えたラークの遺品の腕輪を静かにさわっているだけだった。 彼女は涙一粒流さなかったけれど眉間の間に寄ったシワがその苦痛な心情を表現していた。 彼女の夫はすでに15年前に彼女のそばから離れた。 ジャイアンツらの大地を守るために勇猛に戦って命を失った名誉な戦死であった。 彼女は4名の子供のうち、娘一人は病気で失った。 そして息子一人を夫と同じように名誉な戦死という名目の下に離別せざるを得なかった。 首が飛んだままのたれ死んでいたラークの死体が脳裏に浮び上がって唇をかんだ。 冷たい腕に関わっていた腕輪。彼が弟の死体を抱きあげた時、腕輪の彫刻が互いにぶつかって出した冷たい声は今でも耳に生き生きと残っていた。彼は今まで色々な部下の兵士たちの遺品を遺族に届けたことがあった。それは幾度体験しても慣れないことだった。それに加えて、今回は実の弟の死であり、彼の伝言を聞いているのは母と妹と状況は無残なことだった。一度に大きく息を吐き出すことができないほど空気が不快だった。 妹は横たえる腕輪を握った母の手の上に自身の手をのせては泣きわめいた。その娘の手の上から更に手を重ねて、母の目も徐々に細めていった。母のあごに涙が落ちる前にナトゥは背を向けて家を抜け出した。

弟の死を伝えに家に立ち寄ったことが浮び上がるや胸が苦しかった。ナトゥは首まで込みあがった重たい憂いを吐き出すように長いため息をついた。自身の家だけで起きた特別な悲劇ではない。一度一度の戦闘ごとに多くの母達の目から涙が落ちただろう。そしてかなり以前からあった数多くの戦闘によって数え切れないほどのの母達が、妹のようにかっと泣きわめいただろう。強靭な大地の神ゲイルが守護したこの大地はいつから汚されたのだろうか。ジャイアントを守護する神ゲイルはいつから私たちの同族達の前に姿を現わさなくなったのだろうか。いつから神はこの大地に背を向けていつからモンスターらが大地のあちこちで醜悪な姿を表わすようになったのだろうか。冷たい大地よりも硬い者,すべてのジャイアント達を抱え込んだ偉大な山。それがゲイルだ。幼い時から繰り返し聞いてきた話であった。明らかにその話を真に信じた時期もあった。しかし今はゲイルの神像の前に立っても平常心ではいられなかった。いつまでこの都市を守ることができるだろう。エトン城はジャイアント達が最初にR.O.H.A.N大陸に足を踏みいれた場所にたてた都市で、首都であり聖地でもあった。この地はジャイアント達の手で守られなければならない場所だった。しかしナトゥから、そのような覚悟と初めて戦場に出て行った頃の覇気はすでに消えて久しかった。

“このような時間にここで何をしていらっしゃるのですか?”

月の光と上半身の影が作り出した光と闇の鮮明な対応の中に半分ぐらい体を隠したまま話しかける者があった。 影は一歩前に出てマントのフードをおろして、月の光の下の顔を表わした。

“フロイオン・アルコン殿…”

ナトゥは軽く握った拳を胸に当てて頭を下げて、礼を表わして言った。

“殿こそこの夜遅い時間に何かご用ですか? しかも護衛もなしで。”
“ドラットのエトン城は城内での散歩さえも危険なところでしたか?”

冗談の気が混ざったダークエルフの使節の話にナトゥの眉毛がびくっと動いた。フロイオンはいちはやく手を振りながら笑った。

“冗談です。やはりジャイアント達は自身の国家に対して非常に自信を持っていますね。”
“誰でも自身の種族と国家に対して自負心を持つものです。フロイオン殿。”
“そうですか? 少なくともジャイアント達はそうだという話ですね…”

フロイオンはかたい顔で話してはナトゥが何と反応する前に話を回した。

“ところで語り口が変わったんですね。 もう少しお気楽におっしゃると。”
“…この前の無礼を許して下さい。”

ナトゥはもう一度フロイオンに頭を下げた。ダークエルフの貴族青年は妙な微笑を浮かべた。ナトゥはその笑みが気に入らなかった。何を計画しているのか、君たちのダークエルフ達は。

“ちょっと歩かれないでしょうか?エトンの冷たい空気を感じることができる日にちもいくらも残っていないですから。”

フロイオンは先に立って歩み始めた。 散歩といっても城の前の広場を行き来することだけだ。 異種族の使節に許諾された空間はそんなに広くなかった。ナトゥはつかつかと歩いてフロイオンに追いついて並んで歩いた。

“使節団の目的は終わったようですね。 いつ帰るのですか?”
“いえ、今回は目的を達成できませんでした。 ですがまもなく成し遂げることができるでしょう。”

ダークエルフの青年の笑みには自信がにじみ出ていた。ナトゥは顔をしかめて歩みを止めた。

“果てしなくわき出るモンスターらを相手にするのも手にあまります。 あなた方は私たちの国王をそそのかして、何かことをしようとしているのですか?”

話してはしまったと思った。 国家交流問題に訪ねてきた異種族使節にする話ではなかった。 その上に声を高めて言うものではもっとなかった。 しかし遅れたナトゥを振り返るフロイオンの顔には相変らずその微笑が浮び上がっていた。

“…早かれ遅かれこの大陸は戦争に包まれるでしょう。この大陸はすでに混乱に陥っています。 もう私たちはモンスターでなくお互いを相手に刀を持たなければならないでしょう。 ご存知でしょう、軍隊を導いておられる方であるから。”

徐々にフロイオンの顔で微笑が消えた。 真剣な表情になったダークエルフの青年は目を光らせた。

“先に動く者が勝機を持つ確率が高まるというものです。そして私たちは先に動くつもりです。 誰よりも先に。勝利するために。”
# by hiiragi_rohan | 2007-05-21 14:17 | R.O.H.A.N小説

第1章1節 救援の重さ<10話>

ヒューマン王国デル=ラゴスに建設されたグラト要塞はヒューマン達の自負心がこめられた建築物だと聞いた。モンスター達が急増して、人々を襲撃し始めるや防御ラインとして急造された要塞であった。 それでも非常に堅固に作られた建物で、ヒューマン達はここを無敵の要塞と呼び、誇らしく思っていた。
トリアンは目の前でうなだれている若いヒューマンの騎士の心を理解することができた。自分たちの象徴だったものの一つがその内部から一気に崩れてしまったのだ。エルフ達の誇りであった首都レゲンをモンスターらに奪われたように。グラト要塞に入る前までトリアンはこのようなことになるとは思ってもいなかった。しかしグラト要塞の動向を見回したキッシュが低いうめき声を出すといきなり口を開いた。

“その小僧を救いに行く。”
“キッシュ、待ってくださいよ! 私も一緒に行きます。”

キッシュはトリアンの話に答えないまま低姿勢になって要塞へ向かった。 キッシュの後に従って飛び込んだ要塞の中の状態は凄惨だった。数多くのヒューマンの兵士の死体が要塞中に散らばっていた。 生き残った兵士たちはまだお互いに向かって、剣と矛を振り回し戦っていた。狂気に捕われて、お互いを憎悪しながら戦う人々。トリアンはその暗い気勢に体が震えてくるのを感じた。ヒューマンの兵士たちはお互いに対する憎しみがあまりにも大きくて周囲の何も見えないようだった。 キッシュは彼らが攻撃してこないということを悟るや大きく耳を立ててしばらく音をあさっているようだった。そして彼は急いで要塞の中にある建物へ向かった。トリアンは足にかかる死体とすべりやすい血溜りを避けてふらつきながら、やっとその後に従った。キッシュは半分ぐらい開けていた建物の正門を押して退けた。一歩遅く近付いたトリアンは眉間をしかめた。先んじた人の背中が邪魔して、視野が制限されていているトリアンにはキッシュが誰かの肩を抱いているように見えた。誰だろうかと心配する前にキッシュは特有の鉄の声であらんかぎりの声を張りあげた。

“何をボーッとして見ている! 何かしろ! お前は魔術師じゃないか!”

トリアンはあたふたキッシュの横に走って行った。身近に近付くや奇怪な状況が一目で入ってきた。 門の中で背を向けて立っている男の体には大きな穴が空いていた。キッシュは片方の手で男の肩を握りしめて、もう一方の手を男の体に開いた穴の中に押込んでいた。 トリアンは息を引き寄せて尋ねた。 自ら声が震えていることが感じられた。

“…だ,あなたが…その,そのように殺したのですか?”

穴の中に押し込んだキッシュの手。いっぱい力が入って、筋肉が浮き出た彼の手は男の体を通過して、体の主の手首を握りしめていた。男が手に持った剣を振るえないようにしようとしているところだった。男の胸とその胸に茫然と空いた穴をぼうぜんと眺めたトリアンの視野に入るものがあった。 その穴の向こう側にあるもう一つの人物。キッシュは金属感たっぷりな声で怒っていた。神がどうしたとか、モンスターらがどうしたとか、死体がどうしたとか。その半分ぐらい悪口が混ざった叫びの中にはトリアンに向けたものもあった。まぬけなエルフ女とか、この男は初めから死んでいたとか、エルフの大神官の神眼を信じることはできないとか。どうであれキッシュの悪口と不平はトリアンの耳に明確な意味で聞こえてこなかった。トリアンはヒューマンの男の胸に開いた穴とキッシュの腕で区分された狭い視野の向こう側に見えるヒューマンの青年の顔に集中していた。自身の胸をぐっと押している彼の両手は血で赤く染まっていた。とてもおびえて混乱に陥った顔。今の状況が理解できないという表情。ヒューマンの青年の目と合った時、トリアンは彼がつぶやく言葉の内容を理解することができた。
動く死体達でいっぱいな要塞でキッシュとトリアンはやっとヒューマンの青年を引っ張って逃げることができた。そしてもしもの場合の追撃を避けて洞窟に隠れ、足音が迫るかを聞いた。グラト要塞に奇異な現象が広がり始めながら、突然暗くなった空はついに勢いよく雨を降らせまくった。逃亡者達をかくまおうという配慮なのか壊滅してしまったグラト要塞のための涙かわからないが。

トリアンはヒューマンの青年を救う過程で一瞬見た姿を思い出してからだが震えた。 大きな穴が空いたまま動く人よりも、要塞の中庭にいっぱい広がった死体のようなものよりもより一層恐ろしいこと。 それは神の姿をした憎悪であった。トリアンが見てしい、ヒューマンの青年もやはり見たはずのその神の姿は実際にR.O.H.A.N大陸に生きて動くすべての種族らに対する憎悪をかもし出していた。
キッシュはグラト要塞でにせ物の神がいるといった。 にせ物の神…リマ・トルシルは彼らがにせ物だとは思わなかった。私たちR.O.H.A.N大陸の被造物に憎悪を持った彼らが、にせ物の神であれば私たちにはもう少しましな状況かも知れないが…

“あなた方は誰ですか? エルフと…異種族の方達がこの地域にはどんなことで…”

ヒューマンの青年-エドウィンが用心深く尋ねた。 トリアンはその話声に現実に戻った。 エドウィンはトリアンとキッシュをかわるがわる眺めていた。彼はデカン種族のキッシュを初めて見たため、彼をどのように呼ぶべきかも適当な名称を捜し出すこともできないようだった。 この前のトリアンがそうであったように。

“またごあいさつします。私はトリアン・ファベルといいます。エルフで、ヴィラ・マレアの魔法アカデミーの学生です。そしてあちらはキッシュ、デカン種族の一員です。”
“あ…エドウィン・バルトロンです。 私はデル・ラゴスでロハを崇める聖騎士団の一員です。ところで…”

トリアンの話に反射的に自身を紹介したエドウィンはためらいながらキッシュを見た。

“世界の父・オンが直接創造された生命体ドラゴン…彼らの後裔が私たちのデカンだ。”

キッシュが錆がついた金属性の声で説明を付け加えた。 エドウィンはしばらく顔をしかめてため息を吐いた。

“ドラゴンの後裔…ですか。今は何か話を聞いても驚かないと思います。”

信じることができないという表情だった。トリアルはエドウィンのその乱れていた心情を理解することができた。
# by hiiragi_rohan | 2007-05-08 17:39 | R.O.H.A.N小説